さらさら

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敗れた若者たちにグッと来た、2016年マスターズ。

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 松山英樹選手の日本人メジャー初制覇がなるかと注目された2016年のマスターズ。ジョーダン・スピース選手が2年連続の完全優勝目前でまさかの失速、悲劇的な敗北を喫しました。負け方があまりに衝撃的だったので、正直まだそちらの印象ばかりが残っています。

 ただ、勝ったダニー・ウィレット選手も伏兵と言うには失礼な選手で、欧州ツアー4勝の実績があり、アマチュア時代には全英アマでローリー・マキロイ選手を下して優勝、世界アマランキングでも1位になったことのある実力者とのこと。

 面白いことに、マスターズ最終日が奥さんの出産予定日と重なっていたため、当初はマスターズを欠場する予定でした。しかし、運命のいたずらで予定日よりも早く赤ちゃんが生まれたため、“予定外”のマスターズ出場となったという選手です。加えてこの最終日は、奥さんの誕生日でもあったと…! どうしてもスーパースターの悲劇に目がいってしまいますが、ウィレット選手の側にもドラマティックなストーリーがあったんですね。

 

 さて、そんな2016年のマスターズですが、私にとっては3人の若者の敗れた姿が最も印象的でした。

 

日本人が、「負けて悔しい」と思えた日

 

 まずは松山英樹選手。

 優勝候補の一角として臨んだマスターズ。日本のゴルフ界、ゴルフファン、ひいてはスポーツファンの期待も背負って戦いました。

 一時は単独2位にまで浮上したものの、なかなか「アンダーパーの世界」に入りきれず、特に最終日のフロントナインは、3ボギー、1ダブルボギーを喫するという厳しい戦いを強いられました。最終的にイーブンパーまで戻した粘りはさすがでしたが、終盤でパッティングに苦しみ順位を上げられませんでした。耐えて耐えて、もう一歩が伸びない展開は相当悔しかったことでしょう。しかし、全89選手中アンダーパーだったのはたったの6選手のみ、イーブンパーまで含めても9選手しかいないという非常にタフな大会で優勝争いを演じたことは、敗れてなお今後の自信につながることでしょう。

 もはや世界屈指のショットメーカーだけに、パッティングの向上と経験値の上積みで、本当に毎回メジャータイトルを争う選手になってくれることでしょう。

 ファンも含めて、マスターズで「勝てなかった」ことが悔しいと思える、この状態自体が凄いことだと思います。伊澤利光選手(2001年)や片山晋呉選手(2009年)が4位に入ったときの、心から「よくやった! 十分だよ!」という達成感とは雰囲気が異なります。

松山なら勝てる。誰もがそう思っているからこそのことでしょう。

日本のファンに夢を見せてくれる松山英樹というゴルファーの凄さを、敗れて改めて実感したマスターズでした。

 

 

現時点ではスピース>マキロイか。

 

 次にローリー・マキロイ選手。

 3日目の最終組で実現したジョーダン・スピース選手との頂上決戦。互いに若くしてメジャーを制し、向う10年世界のゴルフを牽引すべき存在です。その注目の直接対決はスピース選手に軍配が上がりました。1打差でスタートしたものの、終わってみれば5打に広げられていました。ふたりの戦いとしては完敗と言えるでしょう。

 マキロイ選手はマスターズでの勝利とライバルを意識し過ぎたのか、精神戦でしびれを切らして自滅していったように見えました。自慢の飛距離の武器に「攻め落としてやろう」という姿勢が全面に出過ぎたという印象です。2日目に続いてじっと耐え続けたスピース選手と比較すると、現時点ではマネジメントを含めた総合力として、スピース選手>マキロイ選手かなと思います。少なくともオーガスタで強いのはスピース選手と言えるでしょう。

 鍛え抜かれた肉体と完成されたスイングを誇る最強のドライバー名手。そのゴルフ界屈指の“アスリート”が精神面の戦いによって脱落していく様は、どんなに飛距離=アスリート化が必要になっても、ゴルフといういゲームはサッカーや陸上とは違うということを再認識させてくれました。この完敗を受けて、来年以降のマキロイ選手がマスターズに対してどうアプローチするのか、ますます楽しみになりました。

 

 

あまりにも残酷な敗戦劇。

 そして今年も「主役」となったジョーダン・スピース選手。

 マスターズ初登場の2014年は2位タイ。昨年はタイガー・ウッズ選手に並ぶ史上最高スコアでワイヤートゥワイヤー(初日から最終日までずっと首位を貫く)の完全優勝。初出場からの2戦でこの成績は、ニクラウスやウッズなど歴史上のどんな偉大な選手も成し得ていない驚異的記録です。そして今年、史上4人目のマスターズ連覇(達成者はジャック・ニクラウス/1965年&1966年、ニック・ファルド/1989年&1990年、タイガー・ウッズ/2001年&2002年の3名)に挑み、なおかつ2大会連続のワイヤートゥワイヤーとなれば、またまた史上初の快挙です。

 開幕前直近の戦績から調子がいいとは見られていませんでしたが、いざオーガスタに足を踏み入れると初日から独走態勢に入り、実力をみせつけてくれました。しかし思えば3日目から綻びは目立っていました。アドレス時に頻繁に手の汗をぬぐい、ショットも曲がり始める。不安要素が見え隠れし始めました。それでも勝負どころでは崩れない、リカバリーしてくるという地力の強さで踏ん張るあたり、本当に実力者であることの証明だと思います。

 アンダーパーがほとんど出ない厳しい3日間を粘り抜き、いよいよサンデーフロントナインで2位と5打差をつけ、この時点でライバルを退けるという仕事は完了しました。

 しかし最後に待っていたのは、まさしく自分という敵でした。そこから12番での悲劇を含む信じられない転落劇。彼の悲劇はアーメンコーナーの伝説のひとつとして語り継がれてゆくでしょう。それでも15番のバーディや16番のティショットなど、盛り返そうとする力は感動的ですらありました。 

 敗北の直後に前年優勝者としてウィレット選手にグリーンジャケットを着せた光景は、かなり残酷なものに見えました。彼自身もこれはつらかったと素直に吐露していました。

 もし今年のマスターズでもあのままスピース選手が勝っていたら、それはそれでタイガーの後継者としての地位をより確固たるものとしていたことでしょう。

 しかし今回のあまりにも残酷な、でも非常に人間的な、精神的揺らぎを見せての敗北には、私は親近感を覚えました。「ああ、ジョーダン・スピースも同じ人間なんだな」と。

 

 若者たちの3者3様の敗北。それぞれが印象的な「負け」に見えました。強みもプレースタイルも異なる3人が、どんな成長で壁を乗り越えていくのか。その過程をじっくり見守りたいと思います。当分の間、おっさんの楽しみは尽きそうにありません。

 

【了】